床板通信
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この伝言を探すのに難儀したでしょう。申し訳ないがこれが一番間違いがないと思う。 最近夜半に部屋の周りを芹沢一派がうろうろしています。もう君と邸内で打ち合わせるのは難しい。 今後連絡事項はここに残します。読んだ後は上から削り取って元通り床板を嵌め込んでください。 新見さんの件、そろそろ君本人に接触を図ってくると思う。知らせてください。 確かに紙に残すと何かあったら事だ。床の板裏ってのは名案だ。 あんたと直接話すといちいち角が立つから俺もこのほうが楽だ。 さっそく角を立てるが新見のあれな、何もふたりで手を汚すこたないと思う。 あんたは手をひいてくれ。後は俺ひとりで充分だ。 冗談じゃない。 ああ冗談じゃない。このことで近藤さんが怒るのは目に見えてる。 副長ふたりで結託したとなったら余計に怒る。あんたは充分協力してくれた。 現場に居合わせるのも憎まれるのもひとりで済むならそのほうがいいじゃねえか分からず屋。 ここまで来てひとりで充分だはないでしょう。どうせなら一緒に泥水を飲みます。 私がいながら君に好きにさせたとあっては私が近藤さんに面目が立たない。何が何でもご一緒する。 にしても君は字が酷い。まったく読めない。分からず屋とは何だ。 読めてんじゃねえか。そこまで言うならとことん付き合え。つか料亭の手配てめえがしろ。 畳汚れるからそのへんも手ぇ回せ。腕っぷしの強いの見繕って呼んどけ。 分からず屋だから分からず屋っつってんだ。 万事抜かりなく手配済。分からず屋より。 明日はよろしく。根に持つな。 お疲れ様でした。次は本命ですね。 お疲れ様。というかあんた大丈夫か。 えらく顔色悪かったが新見に好き放題吐かれてびびったんじゃねえだろうな。 だから手ぇひけっつったんだ。今更逃げようったって遅いぞ。 ご心配なく。お優しいことですね。感動だ。 あー可愛くねえ。おやすみ。 今日沖田くんたちと飴細工を見に行きました。とても綺麗だ。君にも見せたい。 無理にとは言わないが明日暇があったら。 夕刻なら出れねえことはない。 というかそんなことは普通に口で言え。 虹、見ましたか。 見た!二重になってたな!ありゃあ見事なもんだ、庭で口開けて見ちまった。 だからそんなことは普通に口で言え。何故わざわざここに書く。 もうやめます。 やめなくていい。 暑くて騒がしくて寝付けないので涼みに出て来ました。祭りが近いんですね。 特に用はないのですが来たついでに書いておきます。さっき螢を見た。生まれて初めてだ。 あんたの書くもん読んでると血生臭えこと忘れるな。 氷を包んで首の後ろに置くといい。よく眠れる。 夜中にあまりひとりでうろうろするな。あんたは危なっかしい。 女じゃないんですから余計なお世話です。君こそ女性顔負けの色白だ。 だいたい子供は腹を冷やすとすぐ下す。着物はきちんと着なさい。 ちょっと早く生まれたぐらいで偉そうに。今度色白だの餅肌だの言ったら泣かすぞ。 どうしても涼みたかったら用心棒を連れて出ろ。誰もいなきゃ俺を呼べ。 用心棒と言えば、本命が用心棒に斉藤くんを雇って連れ回しています。 いざとなったら沖田くんは君が、永倉くんは私が抑える手はずになっていましたが彼はどうしましょう。 最悪近藤さんに頼むしかないと思う。君から一言お願いします。 斉藤も何考えてんだかよく分かんねえな。面倒くせえが承知した。 当日どう転ぶか不安だが、まあその都度手をうとう。 芹沢には俺は警戒されてる。あんたのほうがまだマシだ。何かあったら丸めこんどいてくれ。 野口くんは助けたいのだが。 甘ぇな!あんた甘い!汁粉で浸ったんじゃねえか!?見逃して仇討ちされたらどうする気だ。 野口だけじゃねえだろあんた芹沢以外みんな助けたいクチだろ。舐めんじゃねえぞ俺を。 読んだら返事書け。 承知。 分かった。野口はいい。どうせひよっこだしうちの連中とも仲良くやってたからな。 その代わり残りは全部叩っ斬るぞ。いいな。明日に備えてよく寝とけ。 承知。 お疲れ様。これで浪士組は近藤さんのもんだ。色々世話になった。 お疲れ様でした。土方くんがいれば近藤さんはきっと日本一になる。 お見事でした。今後とも健闘を祈ります。 人ごとみてえだな。 ひさしぶり土方くん。あれ以来特に打ち合わせることもないのだが急に懐かしくなった。 君が読むかどうかは分からないけれど。 君が思う新選組のためになることと、私が思う新選組のためになることが、ここに来て食い違いつつあるのだと思う。 結局のところ近藤さんの本当の心を誰よりも知っているのは君だ。 だけど私が新選組のためになると思うこと、をしたいと思っていることを忘れないで欲しい。 忘れたことはねえよ。 もう君に私の言葉は通じないようだ。こんな無益な殺傷はごめんだ。 葛山くんに咎はない。君も分かっているはずだ。君が腹を切らせるべきは私だった。 読んでも返事は書かなくていい。削りとっておいてください。 ここに板をひっくり返しに来るのは、私には楽しかった。 俺もだ。ここに言い訳をぐだぐだ書きたくはない。メシはちゃんと食え。 食べてます。 嘘つけ。 土方くん本当にこれが最後だ。急いでいるので読みづらくて申し訳ない。 言いたいことはたくさんあるが時間がない。 感謝している。本当だ。これから何があっても君なら大丈夫。後を任せます。 次に会う時は、お互いにこれ以上ないほど愉快じゃない状況だと思う。 その時はどうか迷わないように。迷うのは、君らしくない。 小屋、取り壊すそうだ。慌ててこの板だけ剥がして持ってきた。 あんたを焼くとき火に入れるから向こうで読んでくれ。 正直に言う。俺は迷った。もう二度と迷いたくない。 力を貸してくれ山南さん。 昔みたいに。 返事を待ってる。 |